住宅ローン問題支援ネット の高橋愛子です。
前回に引き続き、リースバックについて書こうと思います。
元々持っていた家をリースバックで安く売却したけれど、将来的には買い戻すかもしれない。こういう計画を立てている場合は特に、リースバック後も、「ここは自分の家」感覚で住んでおられる方が非常に多いと感じます。ですが…、実際は、リースバックを実行した時点で所有権は買主に移転しており、該当物件は、居住者の「持ち家」ではありません。賃貸借契約に基づき、家賃を支払って住んでいる「賃借人」になります。
リースバック後も同じ家に居住できているのは、家の買主と賃貸借契約を結んでいるからです。住み慣れた我が家ですから、なかなか切り替えができない気持ちもわかるのですが、それがトラブルの元になることも、実際には多いものなのです。
終の棲家に立ち退き要請!?
60代後半のAさんは、一時的に大きな資金が必要となり、自宅マンションをリースバックで不動産業者に売却しました。終の棲家にするつもりで、売却価格が多少低くてもいとわず実行。不動産業者と普通賃貸借契約を締結しましたが、将来的にお嬢さんが買い戻したいと思った時に叶えられるよう、売却金額に見合った価格で買い戻せるという「再売買予約」の条項も加えての締結でした。不動産業者は、この物件を担保にノンバンク系の金融機関から借入をして購入資金を調達していました。
ところがリースバックから3年後、不動産業者が金融機関への返済不能に陥り、マンションは競売に。Aさんは突然、競落人(競売で落札した人)から立ち退きを求められたのです。
Aさんにとっては思いも寄らない事態です。
「私はこの物件をリースバックしていて、賃貸借契約書もあります。買い戻し契約も設定しています」と必死に競落人に伝えましたが、訴えは通用せず、立ち退かざるを得ない状況に追い詰められました。
抵当権設定後の賃貸借契約は、競売になると無効になる恐れ
残念ながら、これが現実なのです。
賃貸借契約書があっても、このケースでは競落人が賃貸契約を継続してくれなければ、無効になります。なぜなら、不動産業者に資金を融資した金融機関が、Aさんの賃貸契約よりも先に、物件に抵当権を設定していたからです。
正確に時系列を見ていくと、こんな流れになります。
- 金融機関が不動産業者に調達資金を融資。
- その資金を元に、不動産業者はAさんから物件を購入。同時に抵当権を設定。
- 物件の所有者となった不動産業者とAさんが賃貸借契約を締結。
一連の流れは同日に行われるのが一般的ですが、時系列的には、賃貸借契約が締結されるのは、実は一番最後。通常は抵当権設定が賃貸借契約締結よりも先なため、賃貸借契約よりも抵当権が優先してしまうのです。抵当権の実行(競売)により物件の所有権を得た競落人は、入居者の賃貸借契約を承継する義務を負わないため、立退きを求めることができる、というわけです。
競落人は敷金返還の義務も負わない
賃借権より抵当権が優先する「賃貸中物件の競売」による所有権移転は、いわゆる「オーナーチェンジ」とは異なり、競落人に入居者をそのまま住まわせてあげる義務はありません。また敷金を預けている場合も敷金返還義務は元貸主に帰属するため、競落人からは返還されません。したがって、旧貸主が破産している場合や返還能力がない場合、預けた敷金が返還されないリスクが生じます。
もちろん、競落人との交渉により賃貸契約をそのまま継続できることもありますが、それは、一棟マンションやワンルームマンション等の収益物件の場合がほとんどです。戸建や区分マンション等の実需物件では継続できないことが多く、仮に継続できたとしても新たな条件で賃貸借契約を締結し直す形となるため、賃料や買戻し金額が高くなるケースが多く見受けられます。
唯一の救済は6か月間の立ち退き猶予
持てる最後の資産をこの不動産業者にリースバックした結果、まったく知らない人に落札され、突然法的に退去を求められる――あまりに酷で、理不尽な話です。「自宅なのになぜ追い出されなくてはならないの!?」と憤りでいっぱいになるだろうとも思います。しかし、冒頭にも書いたように、リースバックしたからには自分が所有権を持っている「自宅」ではないのです。そして他人の所有物となった物件では、こういったトラブルは決して少なくありません。
賃借人に対して、法律による最低限の保護として定められているのは、下記です。
民法395条 抵当建物使用者の引渡しの猶予
抵当権に劣後する賃貸借であっても、競売により所有権を取得した買受人は、6か月間は賃借人に明渡しを請求できない。
※下線は筆者
この規定により、抵当権設定後に結ばれた賃貸借契約であっても、競売後ただちに追い出されるわけではなく、6か月間の猶予期間が認められています。賃借人は新しい住居先を探す時間を確保できることになります。Aさんにとって、これが唯一の救済でした。
やはり一番大切なのは「目的」の整理と自身の納得
この問題は、前回のブログで紹介した5つのポイントのなかの「⑤買手の信頼性」に通じる話です。買手の見極めはもちろん難しいことではありますが、結局はここをきちんと担保できるかが、将来の過酷なトラブルを避けるための関所のようなものかもしれません。
買主が借入れをして物件を購入すること自体は問題ではありません。むしろ、長期保有となるリースバック物件に現金をすべて投入できる買手の方が少ないですから、借入れをするのは当然とも言えます。そしてそれは、金融機関から借入れができる「信用力のある買手」という見方にもつながります。
事業規模の大小や、個人投資家の資質にしても、高齢の方にとってはおそらく最後の資産である家を預ける相手として「絶対にこの会社(人)なら大丈夫!」と確信してから実行してほしい気持ちはやまやまですが、それを自分で探して、見つけて、会って判断して…というのは本当に難しい。
小規模で運営している当NPOにしても、こうして日々、ブログで私の思いを発信はしていますが、読んでくださる方がどこまでの信頼を寄せてくださっているのか、正直なところは未知数です。ただ、それでもお伝えしたいのは、リースバックをするにあたってやはり一番大事なのは、自分の目的をきちんと整理すること。なぜ自宅を売却するのか、その資金をどう使うのか、ゆくゆく買い戻すのか――。熟慮のうえ、自分が完全に納得したうえで実行に移す手順は必須だと思います。
そのためには、1社、1人だけを信じて突き進むのではなく、複数のリースバック会社に相談し、また、当NPOのような中立的な立場のところも活用する。そしてご自身もリースバックに対するリテラシーをなるべく高めて、慎重に進めていただきたいと思います。
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