住宅ローン問題支援ネット の高橋愛子です。
以前、このブログでも書いたのですが、「夫がローンを残して行方不明になってしまい、家を売るに売れない」というご相談を、今も、2ヶ月に一度くらいはいただきます(以前のブログはこちらから)。
最近も一件ありました。共有名義で、夫婦でペアローンを組んでいましたが、夫が3年ほど前に突然失踪。奥様はあらゆる手段で探し出そうとしたものの見つからず……。その間、ローンは奥様が夫の分も払ってきましたが、今後、このまま残りの二十年近く2人分を払い続けていくのは到底無理な話。どうしたらいいでしょうか、というご相談です。
共有名義の場合、理由はどうあれ、共有者全員の同意がなければ不動産を売ることはできません。つまり、所有権を持つ名義人が認めなければ売却できないのです。
奥様としては、ローンを組んでいる金融機関に債務者変更を認めてもらい、一刻も早く売却してしまいたい意向ですが、夫の行方がわからず、印鑑証明などの必要書類も入手できない状況では手も足も出ない。とはいえ経済的な限界も近い。
このような場合、夫が見つからなくてもなんとか家を売却する方法はないのでしょうか?
結論から言うと、方法としては、なくはないのです。――このような消極的な表現になってしまうのは、それがあまり現実的な方法とは言えない面があるからです。
個人でできることは、「とにかく探す」と「捜索願い」
方法について、順番に説明していきますね。
まず第一には、当たり前のことですが、とにかく行方不明になっている相手を「探す」。
相手の実家、親類、勤務先、友人など思いつく限り、根気強く片っ端から連絡を取り続け、協力を仰ぐことです。以前のご相談では、友人の一人が連絡を取っていたというケースがありました。共有名義人が行方不明になってしまったというご相談のうち、約6割は最終的に本人が見つかって、解決できています。
探すのと並行して、「警察に捜索願を出す」ことも必要です。ただ、成人の、要は「大人の失踪」の場合、理由は本人の意思であることがほとんどなため、残念ながら警察が率先して捜索してくれることはありません。意外に思われるかもしれませんが、子どもの失踪ならば誘拐など事件の可能性があっても、大人の失踪はそうは捉えられないんですね。
警察には本人を連れ帰る権限まではなく、仮に行方不明者を見つけた場合は「捜索願が出ている」旨を本人に伝え、捜索願を出した家族には見つけた場所を教えてくれます(これも、過去には家に戻ってきた例がありました)。
「失踪宣告」申立てまで7年かかる!
では、法的にできることには何があるでしょうか。
ひとつは「失踪宣告」です。失踪後、生死が不明な状態で7年が経つと、家庭裁判所に「失踪宣告」の申立てをすることができます。これが認められると失踪者は法律上、失踪から7年が経過した日に死亡したものとみなされます。なお失踪には「普通失踪」と「特別失踪」のふたつがありますが、「特別失踪」は自然災害や戦争などで1年間生死が不明になり、連絡が取れない場合のことなので、当NPOへのご相談は、基本的に「普通失踪」です。
失踪宣告で死亡とみなされれば(失踪宣言の審判が確定すれば)、戸籍に「死亡」と記載されるので、相続登記を経て不動産売却が可能となります。たとえば今回のご相談でいえば奥様が相続することになって不動産名義は単独になり、自由に売却ができるようになります。
ただし、そうなるまでに最低7年です。申立てても100%認められるかはわかりません。
ローンをはじめ、経済的な状況や精神的にはまさに今が苦しいわけで、辛い状態のまま7年間も待ったり払い続けたりするのは難しいことでしょう。申立ての手続きも、戸籍謄本や失踪を証明する資料の提出など決して簡単ではありません。基本的には弁護士に依頼することになりますから、よほどお金と時間に余裕がなければ、なかなか選べる道ではないと思います。
行方不明者の財産管理人は選任されるが…
もうひとつ、「不在者財産管理人制度」というものがあります。
これは家庭裁判所に申立てることで、不在者(=失踪者)の財産を管理する人を選任できる制度です。申立ての要件は不在者が一定期間(ほとんど年単位)、消息がわからない状態になっていることで、失踪宣告のように「7年間」といった期間の条件はありません。ただ、不在者とは「容易に戻ってくる見込みのない者」を指すため、「元配偶者の現住所がわからない」「連絡しても折り返しがない」というだけでは認められません。
管理人になるのに特に資格は必要ないので、不在者の親や兄弟、親族を候補に立てることができますが、制度自体は、不在者にとって少しでも有利になるように財産を管理・保全することが目的ですから、不在者に利害関係のある配偶者や友人などはなることができません。候補人がいない場合は、申立てが認められれば裁判所が弁護士や司法書士といった専門家を選任してくれます。
「それは不在者にとってメリットがあるのか?」
しかし注意が必要なのは、不在者財産管理人が決まったからといって、すぐに不動産の売却ができるわけではないということです。
繰り返しですが、不在者財産管理人の役割は、財産の管理・保全。つまり「不在者が見つかるまでその人の財産を守っておくこと」なので、財産の「処分」をする権限は付与されません。「権限外行為許可」の申立てという制度もありますが、「どうしてもその物件を売らなくてはならない理由があるのかどうか」「ローンを払えないから売却したいと言っても、不在者にとってそれはメリットなのかどうか」等々、クリアしなくてはならないハードルがとても高いのです。
「法的にできること」と、ほしいスピード感の落差
不在者財産管理人の申立ては、これまで「連帯債務者の配偶者が行方不明で、このままだと共有物件が競売にかけられ不在者に不利益がある」というケースでは認められこともあるようですが、それ以前に、不在者財産管理人の選任にまず4ヶ月~6ヶ月、権限外行為許可の申立てに3ヶ月くらいと、この方法は非常に時間がかかります(専門家が管理人になった場合は、月々数万円の報酬も必要です)。その間、住宅ローンが滞納すれば金融機関から競売申立てをされてしまいますから、スピード感としてまず間に合いません。
このような状況から、不在者財産管理人制度は、行方不明者の不動産売却を可能にする制度ではないと考えたほうがよいと思います。
前向きに「競売」を選ぶことも大いに価値はある
できる限り手を尽くしても共有名義人が見つからない場合、そのまま家に住み続けるなら住宅ローンを継続して支払っていくことになります。しかしそれができない時は、「競売」を選択することも解決策のひとつです。
言うまでもなく、競売はれっきとした売却手段です。住宅ローンが払えず、生活費を切り詰めたり借金してお金を工面するのであれば、金融機関に事情を話して競売を進めてもらうことも、検討する価値は大いにあると私は思っています。
このブログでも書きましたが、現在の一般不動産価格の超高騰を受け、いま、競売市場も非常に高騰しており(ブログはこちらから)、「競売では安く落札されてしまう」という認識はもはや過去のものです。
また競売開始決定通知が届いてから退去まではおおよそ半年~1年程度はかかります。競売開始となればローンを払う必要はなく、落札されるまではそのまま住むことが可能です。思い詰めて多重債務に陥ったりして苦しむくらいなら、落札までの間に身辺整理をしたり、新しい身の振り方を考えるなど、少しでも前向きに、精神的なゆとりを得られたほうがいい。
冒頭の相談者さんですが、実際にそうアドバイスしたところ、ご本人も少しすっきりしたようで、金融機関に一旦相談してみます、とおっしゃっていました。
競売落札後は、売却代金はまずローン返済に充当され、余剰が出れば所有者に配当されます(競売申立から落札まではローン残高に対して14%相当の遅延損害金が加算されます)。落札者に所有権が移れば固定資産税や、マンションの場合は管理費もかからなくなりますから、思い切ることでさまざまな負担をかなり軽減できるのは事実です。ぜひこのことは、記憶に留めておいていただきたいと思います。
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